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●● 100本映画 "No temptation has seized you except what is common to man."地元で起きた事件を映画化して長編デビューした『Fruitvale Station / フルートベール駅で (2013)』、そして社会現象ともなった『Black Panther / ブラックパンサー (2018)』も共にしてきた名コンビであるライアン・クーグラー監督xマイケル・B・ジョーダンの最新作。そしてクーグラー監督にとっては、『Black Panther : Wakanda Forever / ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー (2022)』以来の監督x脚本作品。本作のアメリカ国内の興行成績では、初週3000-4000万ドルを見込まれていたが、それを上回る4800万ドルを稼ぎ出し、既に公開された各国でも好調で、現在全世界で3億1000万ドルと大ヒット中である。 禁酒時代の1932年。元軍人のスモークとスタック・ムーア(マイケル・B・ジョーダン2役)がシカゴから故郷ミシシッピ州クラークスデールに戻ってきた。彼らは良い車に乗っており、製材所を白人男性から買い取った。シカゴにいる時の彼らは、アル・カポネのシカゴ・アウトフィットの下に属し、ギャングたちからくすねてきたお金を資金にジューク・ジョイント(黒人たちのライブハウス)をオープンさせようとしていた。従兄弟であるサミー(マイルス・ケイトン)に手伝わせることにし、サミーのブルースの才能を知る。途中でシカゴから持ってきた闇アルコールを手にし、駅に寄って演奏していたデルタ・スリム(デルロイ・リンドー)とパーリーン(ジェイミー・ローソン)をスカウト。街で商店を営む旧知チョウ夫妻(ヤオ&李麗君)にサプライを頼み、スモークの妻アニー(ウンミ・モサク)に料理を、古い友人で綿摘みをしているコーンブレッド(オマー・ミラー)にはバウンサーを頼み、オープンさせた。しかし、スタックの元恋人で白人として生活しているメアリー(ヘイリー・スタインフェルド)や、見知らぬ白人3人組などが彼らのジューク・ジョイントに招き入れられることを望んでいた... 1932年、ブルース、クラークスデール、アル・カポネ、シカゴ、ブードゥー、禁酒時代、南部バプティスト教会、ヴァンパイア... 本作のどこを切り取っても「巧さ」しか感じない。アフリカ系アメリカ人の文化や歴史を感じつつも、エンタテイメント性にも優れ、ホラー作品でドキっとする場面も多いが、思わずクスっと笑ってしまう瞬間すらある。職業病かもしれないが、なぜ1932年なのか、なぜブルースなのか、なぜクラークスデールなのかを考えてしまう。すぐに分かる。クラークスデールは、ブルース伝説の「クロスロード」があると言われている場所。その伝説を作ったのがブルースミュージシャンのロバート・ジョンソン。彼はクラークスデールの十字路(クロスロード)でギターの才能と引き換えに悪魔に魂を売ったという伝説がある。諸説色々あるが、それが1932年頃。サミーが車でギターを弾くときにボトルネックだったが、ロバート・ジョンソンもそうでありデルタ・ブルースを感じ、まさにこの時代にロバート・ジョンソンが生きていたのだと胸が熱くなる。エニグマチックなブルースの伝説は、ミシシッピ・アーカンソー・ルイジアナのデルタ地区+メンフィスだからこそな部分があるといつも感じている。ブードゥーのように伝統的な土着宗教が色濃く残るのは、モジョなどが登場し本作でも明らかだ。これまたエニグマチックなヴァンパイアがブードゥーが物語で絡み合うのがとても面白い。本作鑑賞後に偶然にもグレートマイグレーション(黒人大移動)のドキュメンタリーを観ていたら、禁酒時代は1933年まで続いたことを知った。そう本作の1932年はギリギリ禁酒時代であり、アル・カポネはアルカトラズ刑務所の中だった。絶対的なリーダーがいないシカゴでは混沌としていたであろうだから、ムーア双子が他を出し抜くことも可能かもと想像してしまう。グレートマイグレーションで北部や西部に渡った人たちが、スモークやスタックのように戻ってくることもある。シカゴ・ブルースが生まれた背景もグレートマイグレーションで、シカゴ・ブルースの父マディ・ウォーターズ、そしてバディ・ガイなども南部からシカゴに渡りシカゴ・ブルースを築いた。脚本を書いていたライアン・クーグラー監督は、それら1932年を知り、武者震いで脚本を書いたことだろう。恐らく私がこれから知らなければならない他の事実も散りばめられているに違いない。もう最後の最後まで「そうきたか」と感心するばかりであった。 そしてそんなクーグラーの脚本を映像化出来たのは、俳優たちの演技にもある。マイケル・B・ジョーダンの2役は、見事だ。最初こそ帽子の色で判断していたが、徐々にスモークとスタックのそれぞれの性格の違いで区別出来た。デルタ・スリムを演じたデルロイ・リンドーにはシリアスと面白さの両方があり、そして何よりも圧倒的な存在感がある。本当に素敵だった。アニーを演じたウンミ・モサクも同様の存在感があり優しさがあり愛すべきキャラクターとなっていたし、サミーを演じたマイルス・ケイトンはまさにスター誕生という感じで、これまた愛されるに相応しいキャラクターであった。そしてブルース音楽もその最高の演出であり映画最大のキャラクターでもあった。ブルースは悪魔の音楽と言われたが、実は教会とも切っては切れない。ふとチャールズ・バーネット監督『The Blues : Warming By The Devil's Fire / ザ・ブルース : デビルズ・ファイアー (2004)』を思い出した。スモークとスタックのように故郷に回帰する者。そして教会に回帰する者。ブルースを演奏する者。そしてブルースを聴く者。 『Sinners』は、今一番最高の状態で出来たエンタテイメント作品だと言い切れる。脚本の巧さ、演出の緻密さ、俳優の演技、音楽の面白さ、設定の隙の無さ、全てに於いて今一番最高なのである。 (1902本目) (Reviewed >> ) |
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●● インフォサイト https://www.imdb.com/title/tt31193180/https://en.wikipedia.org/wiki/Sinners_(2025_film) https://www.allcinema.net/cinema/400642 |
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