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●● 100本映画 "Twenty long years on a chain gangSweatin' and bustin' rock Judge, he come from Memphis Put me in the pen If I ever see his face once more He never get home again" Sidney Poitier sang in "The Defiant Ones" アカデミー賞の作品賞や脚色賞にノミネートされ、噂には聞いていたが、中々観ることが出来なかった。それを今かなり悔やんでいる。もっと早くに出会いたかった。原作は、出す本はベストセラーになってピューリッツァー賞を2度も受賞(本作の原作も)、そして映画化も早々と決定する今や飛ぶ鳥を落とす勢いのコルソン・ホワイトヘッド。前作「地下鉄道」は、『Moonlight / ムーンライト (2016)』でオスカー作品賞を手にしたバリー・ジェンキンス監督がテレビシリーズ化。今回は、『Hale County This Morning, This Evening / 日本未公開 (2018)』でオスカーのドキュメンタリー映画賞にノミネートされたラメル・ロスが監督を担当。ドキュメンタリーにして超誌的で、超独創的で、超個性の塊だったラメル・ロスが、この心揺さぶる小説をどのように演出するのか、正直想像は全くできなかった。「ニッケル」はフィクションだが、実在したフロリダの少年院がモデルとなっている。 公民権運動が続く60年代初旬のフロリダ州タラハシー。エルウッド(イーサン・ヘリス)は、祖母(アンジャンヌ・エリス)と暮らす真面目な高校生だった。キング牧師に傾倒し、学校の成績は優秀で大学進学を勧められていたが、学費が心配で、取りあえず1年は学費が免除される技術学校を紹介された。学校に行く途中に見知らぬ人に車に乗せてもらったが、その車が警察に止められ、エルウッドは少年院「ニッケル」に入れられてしまう。そこで出会ったのがターナー(ブランドン・ウィルソン)だった。ニッケルには酷いしごきと虐待が蔓延っていた... 確実に好き嫌いが分かれるタイプの作品であろう。分かり易く、そして原作通りでないと駄目という人は全く受け付けないはずである。英語の「Subtle」というのがピッタリ。「かすかな」「ほのかな」「巧妙な」「精巧な」「敏感な」「とらえがたい」「つかみどころのない」「不思議な」、そんな意味をすべて含んでいるのが本作である。原作から「巧妙に」削ぎ落したかのような印象を受ける。だが原作を読むと、意外にも殆どをそぎ落としてはいない。ただ説明セリフをほぼ入れていないので、そのような印象になるのだ。元々写真家というのもあるのかもしれないが、何気ない写真や音や表情がセリフの代わりになって「精巧に」物語を語っているのである。それほどまでに研ぎ澄まされた映画なのである。直接的な暴力描写は、「かすかな」描写に過ぎない。それらは一見「とらえがたい」が、それでも観客は「敏感に」彼らの痛みを感じるのである。ここまで「かすかに」簡潔に描きながらも、「不思議と」原作の本質は全く失われずに全てを描き出している。抑圧された少年たちが何を思い、生活していたのか? まだ子供だったのが良く分かる。その子供ゆえの瑞々しさまで映像で感じられるが、それが余計に暴力や抑圧という彼らを蝕むそびえ立つ大きな壁が浮き彫りにしていく。子供なりに考え、そしてキング牧師を通じて行動に出る。キング牧師フォロワーである私には、どうにもならない感情がうごめき、鑑賞後にずっと考えてしまう。 コルソン・ホワイトヘッドという天才小説家が伝えたかった物語を、ラメル・ロス監督は個性で自分の映画作品にしている。ロスにしか出来ない作品であり、ホワイトヘッドの物語である。ラメル・ロス監督はブレていない。もうただただ感じるしかなかった。 (1905本目) (Reviewed >> 8/10/25) |
●● 受賞歴 * Academy Awards, USA2025 Nominee Oscar Best Motion Picture of the Year 2025 Nominee OscarBest Adapted Screenplay : RaMell Ross, Joslyn Barnes |
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●● インフォサイト https://www.imdb.com/title/tt23055660/https://en.wikipedia.org/wiki/Nickel_Boys https://www.allcinema.net/cinema/399083 |
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